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第1章 研究目的および調査方法

第1節 研究目的

 これまで、ジェンダー研究やフェミニズム研究の中で、性別役割分業が語られるとき、「男性の育児」が取り上げられることはしばしばあったが、それらはいずれも世間一般の意見を対象に調査を行ったものが多かった。1992年に育児休業法が施行され、男も女も育児のために休暇を取得できるようになったにもかかわらず、現代日本ではまだまだ、仕事の時間を削ってまで家事・育児をしようという男性は、ごくわずかしかいないといえる。しかし、それがごくわずかであるからこそ、彼らの新しい生き方 − 家事・育児の男女共同責任 − を取り上げる必要があると思われる。

 本研究ではこの点に注目し、前半で世間一般を対象にした男性の家事・育児の現状を簡単に紹介した上で、後半ではこれまで取り上げられることが少なかった、積極的に家事・育児に参加する夫のいる家庭の、家事・育児の特徴を明らかにしていく。その際、夫の家事・育児の裏には妻の家事・育児も存在することを忘れてはならない。そこで、本研究では、彼らが夫婦でどのようにして家事・育児を分担・共同しているのか、そして夫婦がお互いに自分たちの新しい分業のスタイルに対して、どのような考えや思いを抱いているのかということを、インタビューによる夫婦の語りから捉えることで、夫が家事・育児に積極的に参加する家庭の全体的な家事・育児を明らかにすることを目的とする。

第2節 調査方法

 本研究では、主に「男も女も育児時間を!連絡会(以下育時連と表記)」を対象者としたアンケート、およびインタビューにより収集した2種類のデータについて分析を行った。ただし、第2章については、育時連家事プロジェクトが2003年1月に行った、『男は忙しいから家事できない??』の調査報告をもとに分析したものである。

(1) 対象者の選定

 先でも述べたように、現代日本では、夫が積極的に家事・育児に参加している家庭そのものの母数が非常に少ない。そのうえ、彼らは夫婦共働きで子育てをしているという、非常に忙しい人たちであり、その少ない母数の中から、さらに本研究に協力してくれる対象者を探すのは容易なことではなかった。まず、以前からホームページなどでこのテーマについて勉強させてもらっていた、家事・育児をする男性をたくさんメンバーに持つ育時連という組織とコンタクトをとった。そして、育時連が月一回開いている例会に、9月20日に飛び込み参加し、そこで簡単に本研究の概要を説明したレジュメを配り、調査方法や対象者の集め方について相談にのっていただいた。その結果、当初はメール送信による自由記述方式のアンケートのみを夫婦ペアで15組ほど行い、データを集める予定だったが、対象者を15組も集めるのは不可能だということが分かった。そこで、予定を変更し、対象者の人数を減らして、自由記述方式のアンケートに加えて、対面インタビューも行うこととした。そして、対象者の条件として、(1)現在0歳から小学校へ入学するまでの子供がいて、リアルタイムで乳幼児の育児に直面している夫婦、(2)育児時間やフレックスタイム、育児休業など、夫が少なくとも何らかの制度的なものを利用して、育児に積極的に取り組んでいる夫婦、という二つのものをあげ、これらを満たす夫婦を対象者として育時連のメーリングリストで募ってもらった。また、9月の例会に同じく偶然飛び込みで参加していた、東京大学の大学院生の男性も対象者集めに協力してくれることになり、友人や知り合いをあたってくれた。しかし、それでも対象者が数人しか集まらなかったため、さらに条件を広げ、(1)の条件は、かつて子供が0歳から小学校へ入学する以前に、家事・育児に積極的に取り組んでいた夫のいる夫婦に、回想法により当時を思い出しながら語ってもらうものでも良いとし、(2)の条件は取っ払い、明らかに一般の男性より積極的に家事・育児に参加していれば制度的なものを利用していなくても良いものとした。

 その結果、現在子育て中の夫婦5組と、かつて子育てしていた夫婦1組が集まった。ここからは、育時連や東大院生の男性に間に入ってもらうことなく、直接私と対象者のメールでのやりとりとなったが、現在子育て中の1組とかつて子育て中の1組については、夫婦のどちらか片方のみの協力となってしまった。したがって、最終的には、アンケートおよびインタビューの両方に協力してくれた現在子育て中の夫婦3組(以下ケース1〜ケース3とする)計6人、アンケートのみに協力してくれた現在子育て中の夫婦1組(以下ケース4)と夫のみ(以下ケース5)、かつて子育てしていた夫婦の妻のみ(以下ケース6)の計4人、総計10人が集まった。対象者の人数としては不十分であると思われたが、対面インタビューにより得られたデータが、予想以上に内容の濃いものであったため、結果的に十分なデータを確保することができたといえる。なお、ケース1からケース6の詳細なプロフィールは、第3章の冒頭で紹介する。

(2) アンケートおよびインタビューの実施要領

 まず、調査の第1段階としてアンケート調査を実施した。アンケートは全て自由記述方式とし、各設問に対して字数制限なしに対象者に好きなだけ考えを記入してもらうという方法をとった。また、アンケートをやりとりする媒体としてメールを採用し、それぞれの対象者から指定されたアドレスにメールでアンケートを送信し、約2週間の期限を設けて、こちらが指定するアドレスに回答済みのアンケートを返送してもらった。アンケートには「夫用」と「妻用」の二種類を用意し、必ずそれぞれに夫と妻本人が回答することを条件とし、夫側の意見と妻側の意見を単独に聞きだせるものとした。アンケートの設問内容は概ね以下の通りである。

  • 家族構成とそれぞれの年齢
  • 家事・育児の分担・共同状況
  • 自分の得意な家事・育児と苦手な家事・育児
  • 自分の考える夫婦の家事・育児分担の割合(%)
  • 夫が家事・育児をするようになったきっかけ
  • 夫婦ふたりで家事・育児をすることで良かったことと悪かったこと
  • 家事・育児に抱えている悩み
  • お互いの家事・育児に対する評価(100点満点で採点)
  • 今後の希望
  • 自分自身のこと(就業形態や通勤時間など・・・)

 次に、調査の第2段階として、現在子育て中の夫婦3組に対して対面インタビューを実施した。3ケースとも事前にメールで日程や場所について相談したのち、仕事が休みとなる土日に、対象者宅にてインタビューを行った。事前に実施したアンケートでは、夫婦別々に回答してもらうという方法をとったが、対面インタビューでは逆に、夫婦ふたり同時に話を聞くことにより、夫婦の会話のやりとりもみていくという方法を採用した。したがって、インタビューは主な調査者の私に加え補佐をしてくれる調査者1人と対象者夫婦の2対2で行われた。但し、11月中旬にインタビューを実施したケース1はビデオ係も含め3人で訪問し、11月下旬に実施したケース2は土日にかけて宿泊でインタビューを行い、会話の中に夫婦以外に子供が発言している箇所もある。インタビューは全て1時間から1時間半くらいのもので、ICレコーダーで録音すると共に、その様子をビデオで録画した。インタビューの質問内容は、事前のアンケートの回答結果に基づきあらかじめ作成しておいたが、3ケースとも質問内容が同じであったわけではないので、ここでは共通して質問した一部のものだけ下に紹介することとする。なお、共通した質問といえども、対象者に自由に語ってもらうという形式をとったため、これらの質問は話の展開により、全く同じ言葉で、全く同じ順序でなされたものではないことを付記しておく。

<分担の決定> 

  • 家事・育児分担は、どのようにして決められたのですか?
  • 休日の家事・育児の様子を教えてください。
  • お互いにできない家事はありますか?
  • きっかけから現在までの家事・育児分担の経緯を教えてください。
  • 仕事と家事・育児の両立のコツは何ですか?

<影響と評価>

  • お互いに家事・育児で気になっていることはありますか?
  • 喧嘩は少ないですか?
  • お互いが抱えている悩みについて知っていましたか?

<ジェンダー関連>

  • 家事・育児は自分の仕事として認識していますか?
  • もし、妻が専業主婦だったら?
  • もし、夫が仕事人間だったら?
  • もし、次に選べるならどんな生活?
  • 家事・育児への向き不向きは性別の違いだと感じますか?

(3) トランスクリプトデータの作成

 インタビューに際しては、ICレコーダーによる録音と、ビデオによる録画により記録した。これらの会話データを全て文字に起こし、トランスクリプトデータを作成した。その際、対象者が夫婦であり、インタビュー内容についても非常にプライベートなものであるため、会話の中にしばしば家族成員の名前が登場したので、それらは全て仮名で表現した。

 これらのデータについて第3章から分析を行っているが、トランスクリプトデータの引用部分は一回り小さな字で表し、それぞれの引用部分の最後に対象者をケース1からケース3で記した。また、会話中に(カッコ)が出てくる箇所があるが、それは実際にそこで発言されたわけではないが、補足しないと会話の流れがつかめない場合に、調査者が内容を補足したものである。そして主な調査者である私を「A」、補佐の調査者を「B」と表し、それぞれのケースで夫は「夫」、妻は「妻」と表した。また、ケース2において子供が登場した場合、長女を「子1」次女を「子2」と表した。なお、ケース1からケース3において「A」 は全てに共通して私であるのに対し、「B」は全てのケースで別の人であることに注意しなければならない。


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