Last updated : Jan. 20/05 

育時連メーリングリストで話題になった本

『結婚の条件』 小倉千加子/著 朝日新聞社 ◆その3◆

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 古川玲子

 おおお、面白かった! 本を読みながら、声に出してうならせられる事 数回! やっぱり小倉千加子はすごい。

小倉千加子の真骨頂は、ご自分は研究者というエリート職でありながら、
「エリートではない多数派の女性(学生・主婦)の現に立っている状況」をリアルに、時にはデフォルメしつつも共感的かつ断定的に描いて見せるところですが、「結婚の条件」はその面目躍如という逸品です。

「少子化対策には、保育環境の充実が必要」という主張を、小倉千加子は鼻で笑ってみせます。小倉さんの目の前には

「保育所の数が足りないから未婚女性は子どもを産みたくないと思っていると思うか?」と女子学生に問うと、全員が一笑に付す。

という動かせない現実があるのだから。(そりゃそうだろうなぁ)

自己実現が出来て結婚しても続ける価値のある仕事に就けるならいざ知らず、代わりがいくらでもいる「遣り甲斐のない単純な」仕事にしか就けないのなら、そんな労働を結婚してまで続けたくない。多くの女子大生はそう思っている。もしかしたら男子学生もそう思ってるんだろうけど、彼らには「結婚して家庭に入る」という道が一般道として整備されていないので逃げ道がない。その点女子大生には、「家事・育児」という大手を振って入れる逃げ道(またの名を選択肢)があるのである。

「自己実現できる仕事」をGETできる女性は一握りのエリートであって、少なくとも私には回って来そうにないと自覚している非エリート(=多数派)女子大生にとって、「結婚の条件」は「仕事と家庭が両立できること」では決してない。彼女たちは投げやりなわけでも、自己実現を諦めているわけでもない。彼女たちは自己実現したいがゆえに、しかし金銭で支払われる労働市場で自分はそんな「自己実現できる仕事」を手に入れられそうにないという現実をしっかりと見据えているがゆえに、「労働市場以外」でみずからの自己実現の場を確保しようとする。女性は用意周到なんです。小さいころから「用意周到でなくては損をするよ」というメッセージを繰り返し繰り返し受けて育ってきてるから。

まずは「妻であり母である」というステータスを手に入れねばならない。これは日本の社会が満場一致で女性に認める唯一のステータス。これを手に入れておかないと、他でどんなに頑張ったって「負け犬」とか言われちゃうんだからね。そして、子育ての後が「自己実現のための仕事」の出番。そう「やることやって、人にあれこれ言われないようにしておいてから自分のこと」なのだ。なんとも涙ぐましい人生設計じゃないですか。

「自己実現のための仕事」は「お金を稼ぐための仕事」ではないのだから、収入は二の次で、持ち出しになっても構わない。構わないというより、「イキイキとした魅力的な私」であるための投資なのだから、持ち出しになるのはやむをえないし、エステにお金を払うのなら「自己実現のための仕事」にお金を払うのも別段おかしなことではない、ということになる。

で、そのお金は一体どこから出てくるのか?当然「夫の収入から」である。従って、この人生コースにたどりつくためには、

  • 一家の生活を一人で支えられるだけの充分な経済力があって、自分のことは自分でやるので手がかからず、かつ私がやりたいことを喜んで支えてくれる夫

をつかまえることが必須条件。中途半端な経済力の夫をつかんだら、(彼女たちの母のような)低賃金パート主婦の将来が待っている。そんな将来はまっぴらごめんなのだから、夫選びは非常に重要な人生のターニングポイントなのだ。

「そんな美味しい話、そうそうころがってるわけ無いじゃん」とお思いですか?ところが女性向け雑誌をご覧あそべ。子育てを終えた後フードコーディネータになったり、「小さなお店」を開いたり、海外留学をして語学に磨きをかけたり、という「そんな美味しい話」の実例があれやこれやと載っていて、女子大生のみなさん(で少々美貌に自信のあるあたり)がこれを目指そうと思っても不思議のない状況がマスコミによって提供されているのです。それはただマスコミが勝手に流しているのではなく、時代が求める「夢」だからこそ供給している、のです。

まあ、そりゃ誰だってお金はないよりある方がいいし

  • すっっごく高収入で
  • 自分のやりたい事を理解して応援してくれて
  • 家事育児は半分またはそれ以上分担してくれる
       (または家事サービスを購入してくれる)

男性がいたとしたら、「そんな男はいやだ」なんて言い出す天邪鬼な女性はいるわけないと思います。(「そんな男なら誰でもいい」かどうかは別)つまるところ、彼女たちは、「適当な相手(って上記の条件をそなえた人よ)とめぐり合って結婚する」のをこころまちにしている、わけです。

かつてなら、社会的・経済的プレッシャーから、この3条件のうち1つ2つをあきらめたところで手を打ったものですが、今はそうじゃない。
「だって、明日出会うかもしれないじゃない、その美味しい男に」
というのをずーーーっと言いつづけることが出来るんですね。

それはなぜか?
それは、かわいい娘のことならずーーーっと養いつづけてくれる梅宮辰夫パパがバックに付いてるから。だから、娘はずっと結婚しない。
待ってる今現在は「父親が持って帰る収入」と「母親がやってくれる家事労働」で、自分はまったく大変じゃないから、いつまで待ってても別に苦じゃなく→だから少子化が止まらない。

ということで、山田昌弘センセに引き続き小倉千加子センセも
 梅宮パパがいる限り少子化は止まらない
説です。私もそれに賛成一票投じさせていただきます。

少子化が止まるためには

  • パパが貧乏になって成人した娘や息子まで養えなくなる
  • パパとママが冷たくなって、成人した娘や息子を家から追い出す
  • パパとママがもっとお金持ちでもっと過保護になって「結婚しないでいいから孫の顔を見せて頂戴。面倒は全部見てあげるから」と非婚出産を勧める

のどれかが必要なんじゃないかと私は思ったのでした。

なお、小倉さんは少子化対策検討について

女性の高級官僚といい、弁護士といい、学者といい、自分が「経済特区」にいるということになぜ気がつかないのであろうか?

と、その鈍感さを不思議がっていますが、わたしもかなり不思議です。本当に鈍感なのか、もしかしたらわかった上での、保育充実が必要なエリート女性の自己利得誘導作戦なのかと考えてしまうぐらいです。
小倉さんは「保育の充実が不要」とは一言も言っていません。ただ、保育を充実しても少子化が改善する必然性はない、と言っているだけです。

PS.今回この本を読んで、うならされたところはたくさんあるけど、一番こたえたのはこれ。

成人式なんか出席しないものと思っていたと、多くの四十台は言う。彼らは、先行世代からのメッセージをどこかで受け取りながら、学生運動が完全に弾圧された後の大学で、性的な方向で密かな変化を体験していた。

私四十台なんすけど・・・すみません、小倉先生。どこで見てたんですか?

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