カット ワークショップ(No.93):「男は忙しいから家事できない??再び!」

【第一部】

「男は忙しいから家事できない??」調査より

報告:井口由美子


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調査方法

 調査は東京ウィメンズプラザの助成金を得て、2003年1月に東京都小金井市で行いました。調査対象者は夫が20歳から49歳の夫婦の夫か妻のいずれか、調査方法は往復郵送法です。

家事・育児共有の実態
 私達はこの調査で「家事・育児の共有」というコンセプトを使いました。
普通には「家事・育児の分担」という言葉が使われますが、分担と言うと、自分が担当しない部分の責任は一切ないような響きがあります。育児や家事はそういうものではなく、実際に作業は分担するにせよ、その責任はどちらにも100%あるのではないでしょうか? そこで「共有」という考え方をしたいと思います。

 まず、家事・育児を実際には誰がやっているかをみます。家事・育児、それぞれ10項目について妻と夫のどちらがどれくらいやっているかを質問し、「ほとんど妻」と答えた家庭の割合を示したのがこの図です。赤が2003年度の結果、一部ですが青が1995年度の結果です。
<図:家事・育児分担の実態>

 家事については、「ほとんど妻」が70%を越える項目が半数近くあり、家事負担が妻に片寄っていることがわかります。特に「夕食を作る」のような負担の重い項目、「トイレ掃除」のような汚れ感のある項目は、「ほとんど妻」である家庭が80%を越えています。
 育児については、家事より「ほとんど妻」である割合が低くなっていますが、「保育園等に迎えに行く」等の負担の重い項目は「ほとんど妻」である割合が高くなっています。
  1995年の結果と2003年の結果を比較できる項目では、2003年の方が「ほとんど妻」である割合は少なくなっています。これは時代の差か、地域差かはわかりません。しかし、減ったと言っても劇的に減少したとは言えず、今だに家事・育児の負担は妻に偏っています。

家事共有度・育児共有度
 次に、それぞれの家庭でどれくらい家事・育児が共有されているかを示す尺度を作りました。ひとくちに「家事」と言っても、「夕食を作る」と「ゴミだし」では大変さが違います。それぞれの項目の大変さが反映されるように重み付けをし、「ほとんど妻」であれば0点、「妻と夫で同じ程度」なら5点、「ほとんど夫」であれば10点になるようにしました。
<図:家事共有度・育児共有度>

 グラフは著しく左に偏っており、ことに家事共有度のピークは一番左にあると言っていいほどです。平均は家事共有度1.4、育児共有度2.5で、「妻と夫が同じ程度」の5点からはほど遠い状態です。

共有度をめぐる意識
 家事・育児の共有状況について、夫婦はそれぞれどのように思っているのでしょうか。次はグラフは共有状況をめぐる夫婦の意識です。
<図:家事共有についての意識>

 共有度の高い家庭では、男女とも過半数が「今のままでよい」、 25%程度が「もっと夫がやるようにしたい」と答えており、男女間の意識のズレは小さいようです。しかし共有度の低い家庭では、「今のままでよい」答えた妻は 27%なのに対し夫は42%、「もっと夫にやってもらいたい」と答えた妻が71%に対して夫は47%でした。共有度の低い家庭では、男女間の意識の差が大きいようです。

夫の働き方と共有度
 共有度は全般的に低い状況ですが、それにしても比較的共有されている家庭とそうでない家庭があります。それにはどのようなことが関係しているのでしょうか?
 男性が家事育児できない理由について、常に第一に挙げられるのが「男性は忙しいから」です。それは本当でしょうか? それを確かめるため、夫の労働時間を横軸、家事共有度・育児共有度を縦軸にとったグラフを作りました。
<図:夫の就労時間と共有度>

 もし「男性は労働時間が長いから家事できない」なら、グラフは右肩下がりになるはずです。しかし、そうはなっていません。育児共有度では多少右肩下がりの感じがしますが、家事共有度は一定に傾向はみられません。
 また、1つのグラフ内での差よりも、グラフ間の差の方が大きいです。何によってグラフを分けているかは、後ほどご説明いたしますが、「男性は忙しいから家事できない」わけではないわけです。

 また、男性の年収と共有度の関係も調べましたが、これも労働時間と共有度の関係と同様、明確な関係はみられませんでした。
<図:夫の年収と共有度>

妻の就労と共有度
 では、何を横軸にもってくれば、一定の傾向を示すグラフとなるのでしょうか?
 それは、妻の働き方に関する項目です。次のグラフは妻の年収と共有度の関係を示したものです。きれいに右肩上がりのグラフとなっています。
<図:妻の年収と共有度>

 妻が稼げば稼ぐほど、共有度は上がっています。しかし年収130万円までですと、収入があっても共有度は専業主婦家庭と変わりません。夫の扶養内で働く限りは、収入と共有度には関係はみられません。

 次に夫と妻の収入格差をみますと、次のようです。
<図:夫婦の年収格差と共有度>

これも綺麗な右肩上がりグラフです。しかし、妻の方が年収が多くても共有度は 3.6、3.4で、妻の方が家事・育児を多く負担しているのがわかります。

 収入と働く形態には強い相関が見られますので、調査対象を妻がフルタイムで働いている家庭、妻がそれ以外の形態で働いている家庭、妻が専業主婦の家庭にわけてみます。先ほどの夫の就労時間と共有度のグラフが3つあったのは、妻の就業形態別にグラフ化してみたのです。
 夫の就労時間による変化より、グラフ感の差の方がはるかに大きく、夫の就労時間よりも妻の就労形態の方が共有度に大きな影響があることがわかります。

子どもの有無と共有度
 その他、共有度に大きな影響を与えている要因として、子どもの有無があげられます。
<図:子どもの有無と家事・育児共有度>

 子どもが産まれたあとの方が家事・育児の総量は増え、生活はタイトになるはずですから、共有度は上がっていいはずなのですが、現実には下がっています。ちょっとガッカリする結果でした。

 家事共有度は家族の生活実態を反映していますが、育児共有度は、子どものいない家庭では「どうすることが望ましいか」を答えて貰っています。次に、妻の就業形態別・子どもの有無別に育児共有度をみてみます。
<図:妻の就業形態別・子どもの有無別の共有度>

 子どものいない家庭では、妻の就業形態にかかわらず共有度は3.5程度です。
しかし子どものいる家庭では、妻常勤家庭では共有度3.3で当初の理想がほぼ実現しているのに対し、妻その他家庭・妻専業主婦家庭では育児共有度は低下し、当初の理想が実現できていません。
 子どもの有無による共有度の変化については、今後更に分析して行く予定です。

その他の要因
 その他、夫婦の学歴、結婚前の話し合い等様々な要因について調べましたが、明確な関係のある項目はありませんでした。「男が家事をしないのは、『家事は女の仕事』と思っているから」という説もありますが、男性の性役割規範もあまり関係ありませんでした。次の図は夫の性役割規範と共有度のグラフです。これをみると、一見男性の性役割規範と共有度は関係があるように見えます。
<図:男性の性別役割規範と家事・育児共有度>

 しかし、妻の就業形態別にこのグラフをかいてみると次のようになり、性役割規範による差はあまりなく、妻の就業形態による差がはるかに大きいことがわかります。
<図:男性の性別役割規範と家事共有度(妻の就労形態別)>

 一番興味深かったのは夫婦の年齢差でした。「年下の夫の方が共有度が高い」という結果が出ました。何故こうなるのかはよくわかりませんが、なかなか面白い結果です。
<夫婦の年齢差と共有度>

共有状況をめぐる満足度
 夫婦はこのような共有状況に満足しているのでしょうか? また、共有度の高い夫は、イヤイヤやらされていて、不満足な状況に置かれているでしょうか?
 次の図は家事・育児共有状況への満足度と実際の共有度のグラフです。
<家事・育児共有度と満足度>

 家事共有度・育児共有度ともほぼ同様の結果です。共有度の高い家庭では男性と女性の満足度はほぼ同じで、「男性はイヤイヤやらされていて不満足」ということはありませんでした。共有度の低い家庭では男女の差が開き、「男性は満足だが女性は不満足」という結果になっています。ことに育児共有度でその傾向が強いです。


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