§1 男は忙しいから家事できない?? −男性の家事・育児を考える−
アンケート調査より
 2 調査結果の要約

● 夫婦間の家事・育児共有の現状

  今回のアンケート調査では、夫婦間の家事・育児共有状況について、20項目に答えてもらいました。家事については、多くの項目が「ほとんど妻がおこなっている」という回答で占められ、特に夕食づくり・トイレ掃除ではその比率が高くなっています。家事に比べると育児の方が共有されていますが、「お手伝い」の域を出てはいません。
 さらに、20項目のうち、どの家事・育児が大変であるかを質問し、これらの結果に基づいて、各家庭の家事共有度・育児共有度を計算しました。全て妻が担当している場合に0、全て夫が担当している場合10となりますが、平均は家事共有度1.4、育児共有度2.5で、かなり低い数値です。家事・育児の負担が女性に片寄っていることがわかります。
 全体としては低調な家事・育児共有ですが、家事共有度・育児共有度は家庭によるばらつきが大変大きく、中には共有度の高い家庭もありました。では、そのような家庭は何が違うのでしょうか。
 次に、家事共有度・育児共有度に何が影響を与えるのかを分析しました。

● 妻の就労状況の影響が最も大きい

 調査結果を見ると、男性が家事・育児をするか否かに最も影響を与えているのは、

 妻が常勤で働き、応分の収入を得ているかどうか  

という点でした。妻が常勤で働き、応分の収入を得ていると夫は家事・育児をおこなう傾向が強くあります。
 更に

  • 妻が働いていても、収入が130万円以内だと、共有度は妻が専業主婦の場合と変わらない
  • 妻が働いていても、就労時間が短時間(家事共有度で5時間以内、育児共有度で6時間以内)だと、
      共有度は妻が専業主婦の場合と変わらない
こともわかりました。

● 夫の就労状況は育児にのみ影響

 一般的に、男性が家事・育児に参加できないのは「男性の就労時間が長すぎるから」「男性は経済的責任を負っているから」と言われていますが、男性の就労状況のうち共有度と関係が見られたのは、育児共有度と男性の就労時間の間だけで、その影響は女性の就労状況と比べるとはるかに小さいものでした。そればかりか、妻が常勤以外の家庭で夫の就労時間が短い場合と、妻が常勤の家庭で夫の就労時間が長い場合を比べても、後者の方が家事共有度・育児共有度が高くなる傾向がありました。
 しかし、男性の就労時間が短くなるほど育児共有度が高くなるというのは、育児を自分のすべきことと考え、時間があればかかわろうという男性側のやる気を示していると思われます。
 また、妻の収入が夫より多い場合でも、家事・育児は妻の方が多く担当していました。

● 男性の性別役割規範の影響は間接的

 男性の性別役割規範(「男は仕事、女は家事」)と家事共有度・育児共有度の関係を見ると、一見、性別役割規範が強い男性は、家事・育児を共有することが少ないように見えます。しかし、妻の就労形態別に見てみると、男性の性別役割規範の影響は一貫していません。また、妻が常勤で自分は性別役割規範の強い夫の方が、妻が常勤以外で自分は性別役割規範の弱い夫よりも、家事共有度・育児共有度ともに高くなっています。
 性別役割規範の強い男性の妻は常勤従業員になりにくく、また常勤従業員の妻を持つ夫は性別役割規範が弱くなりやすいため、性別役割規範と共有度に関係があるように見えると考えられます。
 共有度に影響を与えるのは、むしろ女性の性別役割規範で、性別役割規範の強い女性の家庭は家事共有度が下がる傾向があります。「家事は私の仕事」と考える妻の家で家事共有度が下がるのは当然でしょう。しかし、育児共有度には影響が見られません。「家事は女性の仕事だけど、育児は二人で」という意識がかいま見えます。

● その他の要因

 その他の要因としては
  • 妻が「家事・育児をして欲しい」と口で伝えても効果があるとは限らない
  • 結婚前に家事・育児の共有について話し合った夫婦ほど、妻が常勤の仕事を続ける割合が高く、育児共有度が高い
  • 夫の学歴は関係が見られないが、妻の学歴は高い方が妻が常勤の仕事を続ける割合が高く、家事共有度が高い
  • 夫婦の年齢は関係が見られないが、夫婦の年齢差は少し関係があり、年下の夫の場合、家事共有度・育児共有度が高くなる傾向がある
  • 子どもの有無で家事共有度に差があり、子どもがいない方が家事共有度が高い
    子どもがいる場合は、子どもの人数や年齢による影響は見られない
  • 生家でだれが家事を担当していたかとは関係が見られない
 等のことがわかりました。

● 家事・育児共有を左右するもの

 個々の条件のうち、どの条件がどれくらい家事共有度・育児共有度に影響を与えているかを調べるために、重回帰分析を行いました。その結果は以下の通りです。
  • 家事共有度・育児共有度に最も大きな影響を与えるのは、妻の就労形態・収入・就労時間・夫婦の収入格差等であらわされる妻の働きぶり(就労状況)です。妻が自営業主・常勤従業員のような、就労時間が長く、収入が多く、夫の収入との差が少ない働き方であるほど、共有度は上がる傾向があります。
  • その他の要因は家事共有度と育児共有度で違います。
  • 家事共有度には妻の学歴・子どもの有無が関係しており、妻の学歴が高く、子どもはいない方が、家事共有度は上がります。
  • 育児共有度は夫の就労時間、夫婦の年齢差と関係が見られ、夫の就労時間が短い方が、夫が年下である方が、育児共有度が上がります。

● 家事・育児共有の影響

 家事・育児共有度の高い男性は少数派ですが、彼らは何らかの理由でイヤイヤながらやらされているのではなく、現在の家事・育児共有を肯定的にとらえています。しかし、家事・育児共有度と「現実に持てそうだ」と思う子どもの数には関係がなく、少子化対策としての「家事・育児の共有」の有効性は確認できませんでした。
 子どもがいない時点では、「男性も子育てにかかわることが望ましい」という意識は強いのですが、現実に子どもを持ってみると、子どもを持つ前に思っていたほどは、男性が子育てにかかわれていません。この落差は、妻が常勤以外の家庭、特に妻専業主婦の家庭で特に顕著となります。
 家事・育児をめぐる状況への満足度を調べると、男性の満足度が女性より高くなっています。家事・育児共有度の高い家庭では夫と妻の満足度に差がなく、両者とも高くなっていますが、共有度の低い家庭では男女差が激しく、女性の満足度が低くなっています。


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