§1 男は忙しいから家事できない??  −男性の家事・育児を考える−
はじめに ─ 家事ってダレのもの? ─

マリ
ねえ、ケンちゃん、ちょっと、この表見てくれる。
ケン
ん、何これ。労働時間表…?
マリ
うん、ジェトロがまとめた国別労働時間の表なんだけどね、これ見てどう思う?
ケン
そうだね。まず…ああ、ほら日本人は働き過ぎだって言われてるけど、これで見てみると、やっぱり日本人男性の職業労働時間は長いよね。経済摩擦が起きるわけだよ。
マリ
だけどさ、日本人男性の合計労働時間は、そんなに長くないよ
< 1週間あたりの、はたらく時間 >
 職業労働家事労働合計(時間/週)
男 性日  本 57.7 4.0 61.7
米  国47.514.161.6
フランス44.916.561.4
英  国43.413.056.4
女 性日  本 47.7 26.7 74.4
米  国36.325.862.1
フランス40.127.767.8
英  国40.118.959.0
「欧州主要国の婦人労働環境の動向とその経済的影響について」ジェトロ 1993 
女性は、フルタイムワーカーの場合 
ケン
あれホントだ。アメリカやフランスとあんまり大差ないね。何で…ああそうか。これ家事労働時間も一緒になってるんじゃない。それだったら、わかるよ。男は家事労働はあんまりしないからね。
マリ
その「あんまりしない家事労働の時間」を見てほしいんだけどね、他の国と比べても、日本人男性の家事時間の短さはすごいと思わない?
ケン
へえ、他の国の男は家事をこんなにやってるの? 家事っていったい何をやってるんだろうね。皿洗ったり、洗濯干したりしてるわけ? こんなに手伝ってたら、奥さんやることなくなっちゃうんじゃないかなあ。
マリ
やることが無くなるどころか、どの国を見ても男性より女性の方が、合計労働時間は長いよ。特にこの日本人女性の悲惨さを見て。
ケン
うーん、なるほど。74.4時間っていうのは、ダントツだね。
マリ
職場では職業労働時間世界1の日本人男性と一緒に働いて、家に帰れば相棒の日本人男性は週に4時間、女性の6分の1以下しか家事労働をしないもんだから負担は女性にくるのよね。
(ジロッ!)
ケン
ウッ、風向きが怪しくなってきたなあ。でも実際問題、家事をたくさんやるのは不可能だよ。第一、仕事が忙しくって帰りが遅いもの。帰った頃には子供なんか寝ちゃってるし。11時・12時から皿洗いなんかやってたら、こっちが倒れちゃうよ。
マリ
あら、仕事が忙しいのは男性に限ったことだっけ? それに、そういう働き方しちゃうっていうか、そういう働き方ができちゃうこと自体が、なんか非人間的だって私は思うのよね。
ケン
まあね。やっぱり、労働時間の短縮が必要なんだろうな。僕も時短には賛成だよ。趣味の時間も持ちたいしね。
マリ
子供の起きてる時間に帰って、子育てする事も大切だしね。今年はILOの「家族的責任条約」(156号条約)も批准されたし、これを弾みにして家庭責任を持ちながら職業労働も無理なく続けられるっていう社会になって欲しいよね。本当の意味での男女共同参画社会にならなくちゃねえ。
ケン
男女共同参画社会って、女性も男性も対等に参画した社会にしようってやつだよね。僕もそれは賛成だな。僕の職場でもがんばってる女性が増えてきたよ。責任感もあるし、結構顧客の受けもよかったりするんだよね。必要なら残業もするしね。
マリ
でも、女性ががんばればがんばるほど、「男は仕事、女は仕事も家庭も」っていう新性別役割分業にとらわれていっちゃいそうで、そこはちょっと不安。
ケン
そういえば、子供がいる同僚の女性なんかはやっぱり大変そうだな。
マリ
男女共同参画社会って、女性が政治・経済活動に進出するっていうだけじゃなくて、男性が家庭生活・地域生活を含めた生活全般について、女性と同等の利益を享受し、責任を担うっていうことも大きな柱なのよ。男性が家庭責任を一緒に担っていないと、結局スーパーウーマンじゃないと生き残れないってことになっちゃうものね。
ケン
家庭責任ねえ。でもなんか「責任」って言われると嫌な気がするよな。家庭ってもっと自然なもんじゃない? 分担とか契約とか、そういう言葉って家庭にはなじまない気がするけど。お互い自然な形で助け合ってればいいんじゃないかなあ。
マリ
うん、やり方は家庭ごとにいろいろあるよね。だけど「自然な形の助け合い」って結局「家庭のことは女性がやるのが自然だし、男性はそこそこ手伝ってればいいんだ」って意味で使われてちゃうことが多いような気がするな。それに私はパートナーが仕事と家庭の両立で悩んでたり、自分の時間が全く持てないくらい疲れてたりするのに、「女だから当然だろ」って一言で片づけるような2人の関係自体が悲しいと思うの。
家事・育児って大変な面ばっかりでも無いよ。人生の中ですごく大切なこと教えてくれると思う。命のいとおしさとか、生産して・消費して・後始末をして・また生産するっていう、生きることのサイクルみたいなものを実感できることって、貴重だと思うな。
ケン
そういう意味では、男は人生の貴重なところを取り損なってるってことは言えるかもね。仕事も大事だけど、生活のそういう部分も大事だよね。その辺のことってみんなどう考えてるのかなあ。近頃は「男も子育て」とか「男の料理」なんていうのが出てきてるみたいだから、案外男も家庭のことよくやってるのかもしれないよ。
マリ
私もそこのところにとっても興味があるのよ。ホントのところどうなってるのかって知りたいな。
ケン
女性の気持ちも男の本音も、両方知ってみたいよね。特に僕達くらいの年代の人たちの気持ちをね。これからの社会を占うことができるかもしれないしね。


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