「男は忙しいから家事できない??」フォーラム記録 第一部レクチャー:「家事ってダレのもの?」調査より(古川) |
はじめに(井口)本日はお集まりいただき、ありがとうございます。 男女共同参画社会の推進と申しますが、男性の家事・育児参加が進まないままに女性の社会参加のみが進んだ場合、「女は家事・育児・仕事、男は仕事」の新性役割分業が固定しかねません。今年発表された内閣府の調査によると、性役割分業について賛成派・反対派が拮抗するところまで意識は変わってきていますが、現実の家事・育児の分担をみると、なかなか変わっていないのが実態です。 男性の家事・育児参加を阻むものは何なのか、どうすればもっと分担が進むのか、それが本日のワークショップのテーマです。まず最初にこの点をめぐる調査の報告を行い、更に4人のパネラーに話を深めてもらい、フロアの方と討論をしてゆきたいと思います。 レクチャー:「家事ってダレのもの?」調査より(古川)調査方法これは、1995年に福岡市でおこなった家事育児の男女分担率に関する調査です。ウィズリブの会という市民グループが、福岡市女性センターアミカスの全面支援のもとで実施しました。対象は福岡市内の既婚30〜40代男女で、住民基本台帳からの無作為抽出名簿に基づいてアンケートを郵送しました。 1995年というと7年経っているので「現在では状況が変わっているのではないか」というのが気になる点ですが、ちょうど8/22に産経新聞に掲載された東京ガスの家事分担調査でも「料理の90%は妻がおこなっている」と本調査とほとんど変わらない結果が出ています。私としては本データの今日性を確認できてうれしいやら、7年間の変化のなさにがっかりするやらというところです。
分担の実態まず家事育児分担度の実態を見ます。ピンク色の部分が「夫と妻で同程度」でそれより左が「ほとんど妻」「妻が主で夫が従」です。「ゴミを出す」以外の項目ではほぼ90%以上がこの「ほとんど妻」「妻が主で夫が従」で占められています。特に「夕食を作る」「トイレの掃除」のように、時間的にタイトなもの(今日は忙しいから、今日の夕食は明日作ることにしよう・・・というわけにはいきませんから)とか汚れ感が伴うものは妻の分担になっていることがわかります。育児は家事に比べると分担度が高くなりますが、やはり「保育園等に迎えにいく」のように時間がタイトな項目に関してはほとんどが妻の分担になっています。
「夫の労働時間、帰宅時間」と分担度:×男性が家事育児できない理由について、常に第一に挙げられるのが「男性の労働時間が長すぎるから」「帰宅時間が遅いから」です。その理由は本当でしょうか?労働時間が短ければ、帰宅時間が早ければ、男性は家事育児をするのでしょうか? そこで、家事育児分担度を数値で表し、労働時間の短い順と、帰宅時間の早い順とでならべてみました。労働時間が短ければ、帰宅時間が早ければ、男性が家事育児をするのなら、グラフは右肩下がりになるはずです。ところがグラフはごらんのとおり、一定の傾向を強く示してはいません。 労働時間が短くても、帰宅時間が早くても、男性は家事育児なんかしない。これがこの調査の第一の結論です。 「男性が家庭責任を担えるように労働時間短縮を」というスローガンは美しいし、本当にやる気のある少数の男性に関して云えばそのスローガンは正しいでしょう。しかし、やる気があるわけじゃない大多数の男性を念頭に置いた場合、「労働時間を短縮すればそんな男性でも家事をするようになる」と思っていると、その予想は裏切られます。私は別の意味で労働時間の短縮はぜひおこなうべきだと思っていますが、こと家事育児分担に関して言えば、問題はそんなに簡単ではないということです。
「妻の就労形態」と分担度:◎ここに、同じように労働時間および帰宅時間と家事育児分担度の関係を表したもうひとつのグラフがあります。先ほどのグラフと同じく、特に右肩下がりの傾向を強く示してはいませんが、全体にグラフの棒が長い、つまり分担度が高い。これは先ほどのグラフとどこが違うかといいますと、このグラフは「妻がフルタイム・自由業」の夫のグラフです。先ほどのグラフは「妻が専業主婦・パートタイム」の夫のグラフです。この調査では、夫婦の年齢・出身地・勤務先規模などさまざまな項目から分担度分析をしましたが、すべての項目の中で一番はっきりと差が現れたのがこの「妻がフルタイムで働いているか否か」の項目です。妻が専業主婦またはパートタイムで働いている状態では、夫は家事育児をしない。妻がフルタイムで働いていて「夫もやらなければ家庭が回っていかない」という状態になると夫はやっと動き始めるわけです。
「夫の収入」と分担度:×「ああ、共働きのダンナね。そりゃ自分の稼ぎが悪いから嫁さんに働かせてるんだろ」「それで嫁さんの尻に敷かれて、ガミガミ言われてやらされてるんだろ」なんて下衆な勘ぐりをする人がいるんじゃないかと思って、その辺も調べてあります。夫の収入で並べたグラフ(妻フルタイムの場合、妻パートまたは専業主婦の場合)がこれです。「稼ぎが悪いから家事『させられてる』」のなら、グラフは右肩下がりになるはずですが、このグラフではその傾向は見られません。 現在の分担度をどう思うかもうひとつ、現在の家事育児分担状況をどう思うか聞いたのがこのグラフです。「分担家庭」とは男性が比較的家事をする家庭、「妻のみ家庭」は分担度がゼロに近い家庭です。比較的よく家事をする「分担家庭」の男性の意見を見ると「本当はもっと妻にやってもらいたい」と思っているのはわずか 9.8%。ほとんどの男性(88.3%)が「今のままでよい」もしくは「本当はもっと自分がやるようにしたい」と答えています。家事育児をする男性は、決して稼ぎがわるいわけでも、妻にいわれて嫌々やっているわけでもないことをご確認下さい。 「妻の収入」と分担度:◎収入といえば、ちょっと面白いグラフがありまして。これは夫ではなく妻の収入と分担度のグラフですが、見事にあからさまなほどに右肩上がりです。先ほどの夫の収入との関係図と見比べてみて下さい。 「妻の労働時間・帰宅時間」と分担度:◎もう一つ、妻の労働時間と分担度・帰宅時間と分担度のグラフも、きれいな右肩上がりの傾向を示しています。 この調査で「妻の就労形態」の次に強力な要因としてあがってきたのが、この「妻の収入」「妻の労働時間・帰宅時間」でした。 妻が稼げば稼ぐほど、働けば働くほど、夫は家事育児をする。これがこの調査の第二の結論です。 「意識」と分担度:△さて、こちらのような女性センター・女性会館は、今回のようなフォーラム開催を通じて「社会啓蒙」「意識改革」をおこなっているわけですが、ではその「意識」の影響度はどうでしょうか? 家事育児に関する考え方を聞いてみました。その中で、次の4項目を「性別役割分業尺度」として点数化してみました。
これらの項目から「性別役割分業肯定派」と「性別役割分業否定派」に分けてそれぞれの家事育児分担度を調べてみました。なるほど、性別役割分業に否定的な人の方が、よく分担しています。では、「意識改革」を進めて「理解あるダンナサマ」を増産していけば、男性は家事育児をどんどんできそうですか?ちょっと待って下さい。「妻がフルタイム」と「妻が非フルタイム」のグラフを比較してみましょう。すると、「妻が非フルタイム」の「理解あるダンナサマ」は、「妻がフルタイム」のセクシスト(性差別主義者)よりも分担度は低いじゃありませんか。 これが「意識改革」路線の限界です。 確かに性別役割分業意識を打破することは、家庭責任の共同分担推進に役立ちます。でも「彼の意識改革をして、彼が家事育児をちゃんと担ってくれるようになってから働こう」と思っているなら、ほぼその日はやってきません。いくら「意識改革」をしても、彼の手は「夫がちっとも手伝ってくれない!」と疲労困ぱい憤懣やるかたないフルタイム妻の「セクシスト夫」以下のレベルまでしか動かないからです。 「意識改革」は「やる必要があるのにやらない夫」を誘導するには意味があるが、現在やる必要に迫られていない夫をやるようにするには力不足。 これがこの調査の第三の結論です。 「三歳児神話」- 実態が意識を変える意識調査に関しては、もう一つ面白いデータをご紹介します。いわゆる「三才児神話」についての質問です。
の設問について、子どもがいる人にもいない人にも答えてもらいました。 子どもがいない人の回答を見ると、家事をよく分担している人たちも、ほとんど妻だけが家事しているいる人たちも、答えが測ったように同じ比率になりました。まあ、こんなにぴったりになったのは偶然なんですが、それにしても、「分担家庭」「妻のみ家庭」の両方とも、子どもが産まれる前はこの問題に対する意識はほぼ同じ状態にある、ということです。 ところが子どもがいる人の回答を見ると、がらっと変わっています。分担家庭は「そう思わない」がグンと増え、妻のみ家庭では「そう思う」がこちらもグンと増えています。これはなぜでしょうか? 分担家庭は共働きの人が多く、保育園を実際に利用している人も多いので、保育園の内容がよくわかっていて「悪くないな」という意見が増えていると考えられます。もう一つ、働くために「保育園を利用せざるを得ない」状況なので「これにハイと答えたら立つ瀬が無い」つまり自分の現状を肯定するために意見が変容したという事もあるでしょう。 一方妻のみ家庭は専業主婦・パート妻家庭が多く、家事育児をほとんど妻だけが担っています。多くの妻が「子どものために私が家にいることが必要」と考えてフルタイム勤務をしない選択をしているでしょう。その状況で「小さい頃から保育園も悪くない」などと答えたら、現在の自分の状況をどう意味づけられるのか。こちらも自分の現状を肯定するために意見が変容した可能性がおおいにあります。 「意見」「意識」というものは、常に現実行動から影響を受けます。「意識→ 行動」だけではない。「行動→意識」ということもある、いやむしろその方が多いのじゃないか。今後調査結果などを読み解く際に、そのことをちょっと意識していると今まで見えなかったものが見えてきて面白いんじゃないかと思います。 |
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