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夫婦でする子育て
〜新しい分業とジェンダー〜

氏名 村上 知佳
主査 池岡 義孝
副査 村上 公子

<目的>

 1992年に育児休業法が施行され、男も女も育児のために休暇を取得できるようになった。しかし、現代日本ではまだまだ、仕事の時間を削ってまで家事・育児をしようという男性はごくわずかしかいない。これまでジェンダー研究などの中で、「男性の家事・育児」が取り上げられることはしばしばあったが、それらはいずれも世間一般を対象に研究を行ったものが多かった。本研究ではこの点に注目し、これまで取り上げられることが少なかった、家事・育児に積極的に参加する夫のいる家庭を取り上げ、夫婦の家事・育児の分担・共同の実態とその意識について、インタビューによる夫婦の語りから捉えることで、夫が家事・育児に積極的に参加する家庭の全体的な家事・育児を明らかにすることを目的とする。

<方法>

 本研究では、メールによるアンケート調査と、対面インタビュー調査の2種類を採用した。まず、第1段階のアンケート調査では、現在小学校入学以前の子育て中夫婦5組と、かつて夫が子育てしていた夫婦1組を対象に、自由記述方式のアンケートをメールで実施した。しかし、現在子育て中の1組と、かつて子育てしていた1組については、夫婦のどちらか片方のデータしか得られなかったため、計10人分のデータとなった。さらに、調査の第2段階として、アンケートに回答してくれた現在子育て中の夫婦の中から3組に対して、対面インタビューを実施した。場所と日時については各対象者と事前に相談した後、11月から12月にかけての土日に、対象者宅で行った。インタビューは1時間から1時間半くらいのもので、調査者2人対夫婦の2対2で行った。質問内容は、それぞれのアンケートの回答結果に基づき、事前にあらかじめ質問項目を作成したものを用いたため、全てにおいて同じ質問がなされたわけではない。

<日本の男性の家事・育児>

 欧米主要国に比べて、日本は男女ともに職業労働時間が非常に長い。しかし、日本男性の家事労働時間は週に4時間と他国の約4分の1しかなく、そのため合計労働時間では他国に差はない。反対に日本女性は、家事労働も他国の女性と変わらないほどこなしており、合計労働時間は他国に比べて約10時間も多いことが分かった。このことから、日本の働く女性の抱える負担の大きさと、日本の男性の家事労働の少なさが問題点としてあげられた。

 では、なぜ日本男性はこれほどにも家事をしないのだろうか。一般的には「男は忙しいから家事できない」という理由がよくあげられるが、育時連家事プロジェクトの調査結果によると、夫の労働時間や収入、学歴と家事・育児共有度の間には明確な関係は見られなかった。このことから、男は忙しいから家事できないのではないということが証明された。では、何が夫の家事・育児参加に影響を与えているのかというと、妻の就労形態・就労時間・収入などである。妻がフルタイムワーカーで応分の収入を得ているほど、家事・育児共有度は上がる。つまり、日本男性が家事・育児をしないのは、妻が専業主婦またはパートタイマーであるからだということがいえる。

<夫婦でする家事・育児>

 ふたりで家事・育児をする夫婦には、妻がフルタイムワーカーであり、夫が長時間労働であるが比較的時間に融通の利く仕事に就いているという、大きく分けて二つの特徴がみられた。しかし、後者には、家事・育児の時間を作るために夫が働き方を変化させているという側面もあった。彼らは、一般的には夫はほとんどすることのないような負担の大きい家事・育児や、なかなか気づきにくいような細かい家事などについてもやっており、「手伝う」ではなく「分担・共同している」といえるレベルのものだといえる。しかし、これだけ家事・育児に夫が参加していても、社会の体質上夫の就労時間は長く、夫婦の分担は半々というわけにはいかないようである。それでも、彼らはお互いが家事・育児の主体となり、親としての義務感まで感じるほど、家事・育児を自分の仕事として認識している。

 また、彼らは性別役割分業に反した生活をする中で、家事・育児そのものへの向き不向きに性別による違いを感じたことはないと語り、そのことから、性別役割分業が性別による特性を生かしたものではないということが明らかになった。また、家事・育児の下位に存在する個々の作業について、個人的資質による差は多少存在するということも分かった。

<結論>

 本研究の妻たちは、働くことに極めて強い情熱を持っており、自分が働かないという選択肢を一度も考えたことがないという人たちばかりであった。この新しい分業スタイルは、女性の社会進出が進み、男性の家事・育児参加が叫ばれるようになったという一連の流れと同じく、まずは妻が社会的に自立し、夫と対等の立場に立つことから、夫の家事・育児参加へとつながっていくのだということがいえる。

 また、この新しい分業スタイルの一番の悩みは、仕事と家事・育児との両立が非常に厳しいということであった。しかし、それでも彼らがこの生活スタイルであり続けるのは、お互いが全ての話題を共有でき、分かり合うことができるという、何にも変えがたい大きなメリットがあるからである。

 一昔前に、社会変動の中でその時代に適した家族のあり方として性別役割分業が生まれてきたように、今また、新しい社会の動きの中で、この時代に最もあった生活スタイルとして、家事・育児の夫婦共同責任という新しい分業の形が、必然的に生み出されたのである。


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