特別企画 1998年の3冊

育時連メーリングリストのメンバーに、印象に残った本を選んでもらいました。

[last] [next] [prev] [top]

太田睦さん

橋本治 『橋本治の男になるのだ』
ごま書房(1997.9)

 「メンズリブの隠れた草分け」橋本治が説く男の自立。妻から言われて家事を手伝うような男が一番自立から程遠いことを喝破して、親フェミニズム系を自称する男達の足元を揺さぶる一冊。

森絹江 『愛されなくていいんだよ』
ユック舎(1998.11)

 「女子高生のための親離れの本」が副題だけど、いい歳こいた中年男が読んでも思い当たることが多々あります。「アダルトチルドレン」「癒し」等のキーワードに不審なものを感じたことがある人にお奨め。

斉藤美奈子 『紅一点論』
ビレッジセンター出版局(1998.7)

 アニメ番組と子供向け偉人伝を女性像批評した本、と片付けることもできるが、何より「笑い」があるという点を積極評価したい本。

[last] [next] [prev] [top]

大塚健祐さん

「家族」をテーマに選んでみました。

1 「ファミリー・コンポ」 北条司 作
  集英社<SCオールマン>刊 既刊6巻・連載中

 叔父夫婦の若苗家と共に暮らすことになった、大学生の柳葉雅彦。男女逆転の夫婦に加え、一人娘の紫苑までもが、ある時は女、ある時は男として育てられていた(以下略・2巻アオリより)

コメント:
「CAT'S EYE」「CITY HUNTER」で知られる娯楽作家による、ホーム・ラブコメ。わたしはこれで終電を乗り過ごし、タクシーに乗る羽目になりました。

2 「イコン」 今野敏 作
  講談社文庫こ25-7 ISBN4-06-263849-5

 マニアを熱狂させるバーチャル・アイドル、有森恵美。主役が登場しない奇妙な ライブで、少年が刺殺された(以下略・裏表紙アオリより)

コメント:
わたしの師匠(何の師匠かはひみつ)が95年に書いた作品で、パソコン通信(インターネットでないあたりが時代を感じさせます)を舞台にしたミステリー。主役格のサラリーマン刑事が、崩壊した家族との関係を取り戻す描写が素敵です。また、少年の描写についても、説得力があります。

3 「この国で幸せになるの」 松苗あけみ 作
  集英社<ヤングユー・コミックス>刊 全2巻

 ふたりの夫に先立たれた亜衣子(69)、バツイチの真衣子(39)、彼氏ナシの 美衣子(15)……骨董や・爛漫堂は女三代男運なし(以下略・1巻アオリより)

コメント:
ラブコメです。何でもアリです。「あなた……わかってるの昨夜のこと」「えっうん ママと二人で一人の男をもてあそんだ」「もてあそばれたのは こっちよ!!」フェミニスト必読(うそ)。
[last] [next] [prev] [top]

賀茂美則さん

1. 「Let's! DADDY」:

 随時刊(次号は3月)、モーターマガジン社。「かっこいいオトーサンの子育てエンタテインメント・マガジン」とのことですが、子育てよりもエンタテインメントにちょっと偏っているか?「土日だけ子供と遊んで大きな顔しないでよ」という母親の声も聞こえてきそうですが、なーんもしないよりはいいのではないかと...。
 いずれにせよ、今の日本でこういった雑誌が出たということ自体、画期的なことではないかと自画自賛したりして...。つぶれないでほしいものです。

2. 父親学入門:三田誠広、集英社文庫。

 株の配当で食ってる父親には、生活の匂いがない、という声も聞かれましたが、僕は宮脇壇の子育て論と似た感じの「軽さ」が好きです。成長した子供との距離の取り方も、僕もこうなれたらいいな、と思わせるものがあります。

3. 21世紀家族へ:落合恵美子、有斐閣。

 家族社会学で最も良くまとまったテキストだと思います。講義をまとめただけあって、語り口が柔らかく、とっつきやすい。著者は僕の一年先輩で大学時代のマドンナでした(関係ないか)。94年に出たものの改訂版が出ました。読んで損はしないと思います。

[last] [next] [prev] [top]

富永誠治さん

1、「闇に向かった家族」 中西茂著
  教育史料出版会

 不登校で家庭内暴力の中3の息子を金属バットで殺した事件を扱ったルポ。子どもと向き合ってきた父親が我が子を殴打するまでの軌跡。父親の子育てといっても、まさにその子育ての中身が問われていることを実証する作品といえる。
 あくまでも父親の犯罪であったため、父親の側からのみ事件のプロセスに傾きすぎている。子どもがなぜ不登校家庭内暴力の道をたどったかについては掘り下げられていないのがとても残念。同様な作品に「父の殺意」(前田剛夫著、毎日新聞社)があるが、この作品の方が私には優れているように思われる。

2、「『少年A』14歳の肖像」 高山文彦著
  新潮社

 酒鬼薔薇聖斗の名で有名な「少年A」の詳細な家庭環境と犯罪に至るまでの内的な世界に迫る作品。検事調書や鑑定書が漏れ公表されるに至ったが、それに基づく作品であるため衝撃的です。子どもの頃、愛されることの無かった少年が、現在もなお誰からも評価されず、誰からも愛されていないという孤独感の中で、犯罪に至るまでの経過を追う。
 「地獄のような苦しみだったことでしょう」との関係者の証言はつい涙を誘う。この事件は特異な事件と切り捨ててしまいがちだが、誤った子育てをしてしまい、いくつかの偶然が重なれば誰もがこのような子どもに育ってしまうという恐怖感さえ覚えた作品だ。違法な漏洩がもたらした作品だけにちょっと気が引けますが・・・。

3、「いじめの光景」 保坂展人著
  集英社

 子どもの立場に立った取材と、電話・手紙などで声を寄せてくる子ども達は数万人という活動の中から描く「いじめの光景」。5年前に購入して読まないまま放置して来たが、今のいじめの実態に無知をさらけ出すある知人に、どのように今のいじめの深刻さを訴えたらいいか、ふと考えたとき、この本を思い出し読んだ作品。いじめ問題の入門書に最適。
 この著者保坂氏、いじめっ子、いじめられっ子の生の声にこれほどまでに接している人は少ないだろう。国会議員になり、彼の活動に大きなセーブがかかっているのが惜しまれる・・と私には思えます。

4、「あがないの時間割」 塚本有美著
  勁草書房

 すでに紹介済みの作品ですが、ある二つの高校で発生した体罰による死亡事件のルポ。校内暴力などで荒れる生徒を力ずくの管理強化で押さえつけるという手法が支配的だった80年代のころ事件が発生。
 保身と責任放棄のため、悲しむ遺族と殺された少年の無念さをよそに、事件をごまかし、歪曲化しようとする、教師や学校関係者の姿は実に圧巻。特に岐阜県立岐陽高校の事件では、我を忘れて夢中になって読んでしまいました。現在の高校の実態の一端を知る衝撃的な作品。

5、「子どもたちの生と死」 芹沢俊介著
  筑摩書房

 現在の教育問題でよく登場する芹沢氏ですが、いじめ・不登校・家族・こども暴力・あそび、などに関する11個所での講演記録をまとめたもの。講演記録なので気に入ったテーマのどこからよんでもかまわないのがいい。年末ぎりぎりに購入したので全部は読み上げてはいないが、「こどもたちの今」を知る上で貴重な資料だと私には思えます。

[last] [next] [prev] [top]

中坂達彦さん

1)堺屋太一 「日本を創った12人」(前、後)
  PHP新書(96年出版)

 筆者の独断的な日本文化社会の切り口が、歴史上の人物をふまえてわかりやすく論じられている。聖徳太子から、松下幸之助まで12人の中に女性が一人も入っていないのは、なぜか。

2)深田祐介 「激震東洋事情 98年度版」
  小学館

 筆者東洋事情シリーズ最新版。全く育時連とは接点はなし。個人的な興味であるが今までのシリーズの中で台湾関連など一番おもしろかった。

3)子安美智子 「シュタイナー再発見の旅」
  小学館

 今手元にないが、内容は特に大したものではない。ただ、一部、個人的な将来への取り組みにヒントを与えてくれた。

[last] [next] [prev] [top]

古川玲子さん

平成10年度版・厚生白書−少子化社会を考える
厚生省監修

 ちょっと大きくて重いんだけど、役に立つ情報がぎっしり。お役所が作ったとは思えないカラフルで読みやすい内容といい、工夫を凝らしたグラフ類といい、「あなたに読んで欲しい」という意気込みを感じます。拾い読みで結構楽しめます。
 「父親が子供と一緒に過ごす時間は短く、存在感も希薄である」なんていわせといていいのか、世のお父様方よ!立ち上がれ全国のお父さん、って感じ。保育園の話から各国の社会補償制度まで、現在の数字が載ってるし、三歳児神話を正面切って否定してくれたのもうれしい点です。

子供時代の読書の思い出 美智子皇后
1998年

 小さい頃深く考えずに読んだ本が、成長してからも心に影響を及ぼしているってことときどき感じます。読書が子どもに与えられる経験と翼について落ちついた知性と愛情のある筆致で書かれており、私は大変共感しました。

となりのせきのますだくん 武田美穂 作・絵
ポプラ社 1991年

 小学校に入学したら、隣の席はとんでもねー乱暴者の男の子だった・・・・おっとり育ちのみほちゃんのカルチャーショックやいかに。
 性別ステレオタイプな話じゃんか〜、って責めないで。あたしはますだくんが結構好きなのです。それにほら、みほちゃんは青のランドセル、ますだくんは赤のランドセル。これ、おねえちゃんのお下がりなんだって。
 一番お気に入りのページはみほちゃんが「やだな」ってつぶやくページです。とってもやな感じが伝わってくるのです。

[last] [next] [prev] [top]

松田正樹さん

 絵本でもOKなら98年の3冊はこれで決まりです。

1)「きょうはなんてうんがいいんだろう」
   みやにしたつや 作・絵 鈴木出版 1998年

 たらふくリンゴを食べて昼寝をしている豚さんたちを見つけた狼さんは「こんなに多くの豚さんを見つけるなんて、今日はなんて運がいいんだろう」とよだれを垂らします。でも一人で食べてはもったいないと、仲間のもとに知らせに走りますが、そこで見たものは・・・。
 作・絵の宮西達也さんは静岡県清水市生まれ。日大芸術学部卒。実生活でも仕事のかたわら4人の子どもの育児を経験しているお父さんです。
 「おとうさんはウルトラマン」(学研 1996年)では、1日の労働時間が3分で決して残業をしないウルトラマンを主人公に抜擢し、ヒットを飛ばしました。翌年には「帰ってきたおとうさんはウルトラマン」(学研 1997年)を発表し、何をやってもダメなバルタン星人が主人公。仕事でも失敗し、子どもの前でもへまをするバルタン父さん。でも、子どもを想う気持ちにはジーンとさせられるんですよね。

2)「きょうはすてきなくらげのひ!」
   武田美穂 作・絵 ポプラ社 1998年

 小学3年生の「こうちゃん」と「りくくん」はいとこどおし。夏休みのある日、2人は海に遊びに行きます。ボートに乗って沖まで出たところで大喧嘩。ところが喧嘩をしている内に、オールが流されてしまいます。あたりを見渡すと、水面にはくらげがいっぱい。さて、どうやって海岸まで戻ろうか・・・。
 作・絵の武田美穂さんは東京生まれ。日大芸術学部中退。お母さんは女優、お父さんは映画プロデューサーという家庭に育ちました。
 「となりのせきのますだくん」などのますだくんシリーズやNHK教育テレビの「がんこちゃん」、そして松谷みよ子さんの挿し絵などでも 活躍する絵本作家です。ますだくんシリーズで登場する「美穂ちゃん」はご自分を、「ますだくん」は実在した同級生をモデルにしたそうです。

3)「老人力」
   赤瀬川原平 作 筑摩書房 1998年

 老いていくと「老人力」がついてくる。でもこの力はマイナスの力。だから、力を入れてはいけない。でも力を抜くには、力を入れる以上に力がいる不思議な力。その実体は・・・。
 育時連の男たちは「自然体で力が抜けている」なんて言われる時があるけど、力を抜くには、力を入れる以上に力がいることも、そう言えば有りましたよね。田尻研治さんの「がんばらない哲学」にも通じるところがありそうです。赤瀬川原平さんの「老人力」はいかに力を抜くかについて示唆に富んでおり、実は、若い皆様にこそ一読の価値があるのかも知れません。

[last] [next] [prev] [top]

山本摂さん

たにかわしゅんたろう 「もこ もこもこ」
文研出版

 谷川俊太郎さんの絵本です。読んでいるうちに、笑いを堪え切れなくなりますので、本屋さんで読む時には気をつけましょう。とにかく、楽しい気分にさせてくれる本です。最後のページまで来たらカバーをめくって見てください。

灰谷健次郎 「天の瞳 少年編T」
角川書店

 育休中に読んでいて、最初はうちの子も倫太朗(主人公の男の子)みたいな子にならないかなぁ、って思っていたのですが、読み終わる頃には自分が倫太朗みたいに生きたくなってました。倫太朗をはじめとする子供達の素敵さや、それを取り巻く大人達のやわらかさがとっても心地良いです。ただ、時々説教くさいのが...

石坂啓「キスより簡単1〜6」
小学館

 石坂啓氏の代表作。高校の頃からの愛読書で、読むたびに違った感じを持つ不思議な漫画。夜泣きして寝ない子供をあやしながら読んでいたら、なんだかすっごく感動してしまった。


● 育時連ホームページに戻る [prev] [top]