- マリ
- 全体的に見ると、男性の家事分担はかなり少なかったね。
- ケン
- 「ほとんど妻」って回答がとても多かったよね。それにしても、男性が家事参加するかどうかが、これほど配偶者の就労形態に左右されているとは思わなかったよ。
- マリ
- そう、私もやっぱり男性側の労働時間や帰宅時間が一番大きい要因なのかと、思ってたもん。ところが、帰宅時間が遅くても共働きの夫はよく家事をしているのね。
- ケン
- 座談会の中で「家事はやろうと思えばできるんだけど、しない」って意見があったよね。あれが大多数の「片働き家庭の夫」の気持ちじゃないかな。座談会に出ていた共働きの男性は「やりたいとか、やりたくないとかではなく、必要だから家事をする」っていうスタンスだったね。
- マリ
- 妻の収入が伸びるほど、夫の家事分担率が上昇するっていう点についてはどう思う? お金の力って、そんなに大きいのかなあ。
- ケン
- 収入って、その人の仕事が職場でどう評価されているかのバロメータ−という側面もあるよね。妻がある程度の収入を得るような仕事をしていると、妻に対して夫が一目おくっていうか、そういう面もあるような気がするな。家計の平等な分担が、家事の平等な分担につながっていることが、アンケートの結果にもでてたね。
収入の面に注目するなら、女性が不安定な雇用形態や責任の少ない立場で、低賃金で働くことが当たり前になっている日本の産業構造全体にも、大きな問題があるんじゃないかな。
- マリ
- 男性に比べた日本女性の賃金の低さは、欧米諸国に比べてもダントツだもんねえ。
女性が長く働き続けても、職場の中でなかなか展望が開けてこないっていう状況もまだまだあるよ。女性が流動性の低い日本の労働市場の安全弁に使われてる面も大きい。パートの切り捨てで雇用調整しちゃうなんていうのはその代表だよね。
男性の家事・育児参加には、妻の就労時間と帰宅時間の影響も大きいみたい。幼児がいる家庭では協力度が上がるようだし。座談会でも出てたけど、「女性がとても大変そうだったら、そりゃあ手伝うけど」っていうのが、男性の家事・育児参加の基本なのかなあ。
図1 日本は欧米諸国に比べ賃金の男女格差が大きい
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(備考)
1. 日本は労働省「賃金構造基本統計調査」、アメリカは"Statistical Abstract of the United States"(各年版)、その他の国はILO "Yearbook of Labour Statistics"(94年)により作成。
2. 女性賃金の男性賃金に対する比率を示す。 |
- ケン
- もう一つ発見だったのは、家事・育児を比較的よくしている男性の気持ちだね。男が家事・育児をしてるっていうと、「奥さんの尻に敷かれてる」みたいな見方をする人が多いみたいだけど、全然そんなことない。主体的に家庭に取り組んでるっていう雰囲気が伝わってきたよ。
それから、女性の行動の自由度の少なさはどう思った? 男は残業だってつきあいの飲み会だって、妻に断らないでできるけど、女性はどうもそうはいかないようだよね。これって普通のことなのかな?
- マリ
- 私も普段からそれは痛切に感じてるの。仕事をしているとどうしてもその日中にやらなくちゃならない事って発生するでしょう? そういう時は、女性だって残業してやりあげたいと思うこと多いよ。でも、できない。自分が帰らないと家族、特に子供が困るということが目に見えてるからね。私は残業するのは嫌いだけど時には「ああ、思いっきり残業して仕事を片づけたいっ」て思うことあるよ。「女性は早く帰れていいね」とか、そういうレベルじゃないって事、わかって欲しいな。
- ケン
- 男は、共働きの場合でも結構平気で遅くまで残業してるよね。
- マリ
- 夫婦で相談し合ってやりくりしてる家庭も多いけどね。でも、協力的な夫婦の間でも、「特に何も言わないときは、家のことは原則として妻の担当」っていう暗黙の了解があるのよ。だから男性が好きなだけ仕事に没頭できるわけでしょ。夕食作りとか時間的にタイトな家事は、どうしても妻にかかって来ちゃうし。
ただ、女性の行動自由度の少なさって、単に「家事・育児があるから」っていう仕事量だけの問題じゃないみたい。たとえ家事・育児に支障がない体制ができていても、「奥さんがこんなに遅くまで出歩いてていいの?」なんてまわりに言われるもの。
- ケン
- それって保育所についても同じじゃない? 親も子供も保育所が楽しくて、納得して通ってるのに、「こんな小さい子を預けてかわいそうに」とか「お母さんがラクしたいのね」とか言われるって聞くよ。
- マリ
- アンケート調査の中でも、『妻のみ家庭』の約半数が保育所に預けることに否定的で、『分担家庭』と大きな差があったね。「母親が働くなんて、子供がかわいそう」という考え方は、家事・育児の負担以上に女性の就労を妨げていると思うな。よい保育所であれば、保育所と一緒に子供を育てるのって、とてもいい面が多いんだけどねえ。育児がとっても開かれたものになるって感じがするよ。
- ケン
- 座談会の中の「女性の言い分は現実性を欠いていて、わがままだ」っていう意見については、どう思った?
- マリ
- うーん、男性の言い分がわがままでないかというと、疑問な点もたくさんあるけどね。おっしゃることはわかります。「ビジョンが良いだけじゃダメなんだ。男性も共感を持って一歩一歩進めることができるような、現実に即した方向を見せないと」というのは、その通りだと思ったわね。今の女性の動きが、さらに成熟していくためには大切なアプローチだと思う。
でも、現実を守り・ふまえながらいくことを強調しすぎると、結局根本的な解決に到らないという面もあるし、難しいね。今の男性中心・会社中心の視点から見ると、ただの「わがまま」に見えることも、もっと大きな時代の流れや世界の動きから見ると、当然の主張だったりするからね。女性も男性も、その辺の見きわめを怠らないことが大切なんだろうね。
- ケン
- 今回の調査の結論は、夫が家事・育児に積極的に参加するようになるためには、妻が職業を持ってしっかり働くことが必要だってことだよね。
- マリ
- でも、逆に妻がしっかり職業労働をするためには、夫が協力的に家事・育児をしてくれなきゃ難しいとも言えるし…。なんだか、「卵が先か、ニワトリが先か」みたいな話になっちゃう。
- ケン
- 社会制度の改革と充実が先決だっていう意見もあったね。もちろん、勤務時間短縮なんかの改善が必要なのは当然だよ。だけど、「社会がこうなってくれたら、自分も変わるつもり」って言ってるだけじゃ、インパクトは弱いような気がする。
- マリ
- 「女性の就労が先か、男性の家事分担が先か」のどうどうめぐりから抜け出すには、まず現状を変えていきたいと考えている人、一人ひとりが、一歩でも半歩でも踏み出すことが重要だと思う。思い切って踏み出したその一歩が、社会や職場や家族やいろいろな物を変えていくための貴重な一歩になるんだと思うな。
- ケン
- それは、女性が職業を持って働き始めるってことを言ってる?
- マリ
- うん。それに男性自身が「男にも家庭や育児を担っていく権利と義務があるんだ」って職場や社会にアピールしていくことも含めてね。ワークシェアをするっていうのが、基本なんじゃないかな。一人が過労死するまで働いて、もう一人が全面的に家事・育児を受け持つっていうんじゃなくて、二人で働いて、二人で家事をして、地域社会を担って、育児を楽しむ。そういうふうにできないものかしら。それも、無理に「ガンバル」んじゃなくて、自然体でね。
- ケン
- そのためには、僕たち一人ひとりが自分の働き方、自分と家庭のあり方、いかに生きていこうかということを本気で見つめ直すことが大切なんだろうね。そこから、今の社会に欠けているものや、今の僕たちの生活に潜んでいる問題が、実体を伴って浮かび上がって来るんだと思うよ。
- マリ
- そしてまずは…
- ケン
- 初めの一歩を踏み出すことだね、男も女も。
- マリ
- 勇気を持ってね。
最後まで読んで下さってありがとうございました。
ウイズリブの会より皆様へ愛とエールを込めて……
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