カット ワークショップ:「男は忙しいから家事できない??」

【第一部】


パネリスト:古川玲子


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「男の子育て」という言葉は近頃トレンドになってきていて、本や雑誌にも登場しますし、ここウィメンズプラザのような女性センターも以前の「女性のための講座」だけでなく「男性講座」に力を入れて子育てパパを応援育成する動きが強くなってきています。まるで「子育てパパ」は流行りもののようですが、実はこんなトレンドになるずっと前から子育てする男性はいました。

私の父親は昭和一桁生まれですが、子育て男です。「子育て・掃除」は父の仕事。「洗濯」も半分以上はやってたかな?母はもっぱら「料理」担当でした。
実は父は料理もできるので、単身赴任になったときは全部自分で作って近所の人を呼んでパーティまでやってたようですが、「料理までやったら全部やる事になるから」と、母がいるときは料理は母の仕事になってました。
子育ては父親の仕事ですから、離乳食を食べさせるのも、本を読んで寝かしつけるのも父親という家庭で私は育ちました。そこで今日は「うちの父親はどうして子育てパパになったのか」について考察してみたいと思います。

我が家は両親共に教師の共働きでした。今回の調査結果である
「妻が常勤で働いていれば、夫は家事・育児をする」
にあてはまっていますね。私の田舎は四国で、田舎は女性の共働き率が高いので私も「子育てしながら働くのは当たり前」と思って育ちました。18歳の時に東京に出てきて、同年代の女性が「結婚か仕事か二者択一」と真面目に悩んでいるのを見てホントにビックリしたのを覚えています。
大人になってから母親に
「子どもが生まれた時に仕事をやめようかどうしようか悩んだ?」
と聞きましたら、目を丸くして
「だってあんた、仕事やめたらお金がなくなって生活できないじゃないの。 子どもを学校にもやらなきゃいけないのに、そんなことでどうするのよ」
と逆に驚かれてしまいました。
子育てパパの第一のポイントは、やはり「妻の働きが経済的に必要」という「経済問題」のようです。

それから私の父親は実は「大の子ども好き」なんですね。好きだからやってて楽しいし、カンが働くから的確に反応できる。百世さんの本にも「男性に家事・育児をやらせるなら、彼の得意分野から攻めるべし」と書いてありましたが、これは正解だと思います。

3つ目のポイント。これにはエピソードがあります。
私が1歳過ぎた頃、日本に最後のポリオ(脊髄性小児麻痺)大流行の嵐が吹きました。そして私はポリオに罹患してしまったのです。ポリオは病気の症状自体は風邪のような感じなのですが、ご存知の通り四肢に麻痺の後遺症を残します。後遺症を軽減するために、病後はリハビリが必要になります。リハビリと言っても1歳の赤ん坊のことですから自分でやるわけではなく、マッサージに通って筋肉を動かし、運動機能の回復をはかるのです。
普段は私の面倒を見てくれていた近所のおばあちゃんが1時間近くかかる町の治療院まで連れて行ってくれたのですが、おばあちゃんの都合がつかない日もあります。最初はそのたびに母が早退をして連れて行っていたのですが、度重なるうちに同僚から「そうたびたび早退されては迷惑がかかる」とプレッシャーがかかってきました。

悩んだ母が相談すると父親は「じゃあ、俺が行く」と宣言し、それからは父がマッサージにつれて行くことになりました。当時、学校教員の定時は5時半でしたが、定時でさっと帰る人は少なく、部活動のめんどうを見たり、テストやノートの添削をしたり、教材準備・事務処理、時には職員会議が5時以降にずれ込む事も多くて、「とても定時には帰れない」状態だったのです。企業で残業が常態化しているのと同じですね。でも、そのときから父は、マッサージの日には定時になったら「ぱっ」と帰るようになりました。その時間までに馬力をかけて仕事をすべて完璧に片付けてしまうので、「誰もお父さんに文句が言えないのよ」(母曰く)なのだそうです。
周りの人にイヤミを言われても馬耳東風。「勤務時間は終わりましたから」と言い置いて帰ってしまう。母は「あの時ほどお父さんが強いと思ったことはなかった」と今でも感心しています。
1時間かけてマッサージに連れて行って、終わったらまた1時間かけて戻ってくる。帰りのバスの中ではもう親子ともどもくたくたで、私を膝に抱いたまま居眠りしてしまい、同乗の見知らぬおばあさんから「もしもし、子どもが落ちますよ」と注意された事も一度や二度ではなかったそうです。

ということでポイントの3つ目は「割り切り」かな、と思います。
「経済」「適性」「割り切り」は、男性が育児パパになる3大要素なんじゃないかというのが私の今回の考察でした。


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